連載コラム2 楽園ロタ島












1.ロタ島はこの世の楽園だ!



……これが島に初めて足を踏み入れた私の第一印象である。



2006年8月、私は家内と共に北マリアナ諸島連邦(首都サイパン)(注1)のロタ島に2週間ほど滞在した。ここにエコヴィレッジ(エコタウン)などを実現するプロジェクトがあり、私の研究する『近自然学(注2)』を活かそうということになった。近自然の考えのベースとなる「我々の豊かさと自然環境とを両立させる」ためには、まずしっかりしたグランドデザイン(全体構想)が大切だ。そして、それを描くのに必要な材料を集める現地調査のために、今回ロタ島を訪れた。さらに、今回、政府関係者やロタ島市長とロタ島の行政に関わる皆さん、そしてマスコミ関係者に対して、近自然学の講演を行った。ロタ島でのエコヴィレッジの実現は北マリアナ諸島連邦政府やロタ島市長などとの共同プロジェクトであり、しっかりした協力なしには実現不可能だからだ。講演では、とても熱い反応で、充実した手応えを感じることができた。



その調査結果も含めて、13回にわたって、皆さんにロタ島の色々な面を、近自然の目を通してご紹介したい。第1回目は、家内が英語で書いたロタ島のウェディング・ケーキ・マウンテンを題材にしたメルヘンであったが、もうお読みいただけただろうか?

環境問題に興味のある方、近自然の考えをお知りになりたい方、南の楽園に魅かれる方、新しい人生を模索されている方などには、是非お読みいただきたい。もし何らかのヒントが得られるなら、こんなに嬉しいことはない。



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2.「楽園」とは何か?



ロタ島の自然は素晴らしい。

海は清澄でありながら力強く(写真)、森は豊満でありながら凛としている(写真)。浜辺は多様で(写真2枚)、テラス状の平地にも恵まれている。森には野生のシカが沢山すみ、色とりどりの熱帯の魚や大型のロブスターが沢山捕れる(写真)。島の至る所にたわわに実るフルーツ、特にマンゴーの旨さは格別だ(写真)。また、無数の薬草やハーブが自生し、ホットペッパー(またはロタペッパー)と呼ばれる、野生の赤く小さなトウガラシはとても旨いのだがその辛さは……一口で空を飛ぶこと請け合いだ(写真)。さらに、島のあちこちに咲き乱れる花々の美しさは、この世のものとは思われない(写真)。まさに「南国の楽園」という表現がふさわしいだろう。南の島に憧れる人が訪れれば、即座に魅惑されるに違いない。



私は幸か不幸かインド洋に浮かぶサンゴ礁の島々モルジブ諸島を知っている。海と浜だけを見れば、モルジブの美しさは格別だ。でありながら、私はモルジブを「楽園」とは呼ばないし、そこに住みたいとも思わない。私にとって、「楽園」とは、特別な意味がある場所なのだ。












それでは、「楽園」とは何なのか?



「太陽がさんさんと降り注ぎ、清い水がこんこんと湧く。きれいな小川が流れ、豊富な果物が実る豊かな森がある。エメラルド色の海には色とりどりのサンゴがすみ、沢山の魚が泳ぐ。気候が温和で、自然の恵みである食べ物が豊富にある。人間同士はもちろん、人と動物も調和して平和に生きる。人々は健康で、永遠の命を受け、あくせく働かなくても皆が満ち足りて幸せに暮らすことができる……」



そんな情景が私には思い浮かぶ。

また、「素晴らしい伴侶の存在」も必要条件にあげたい。なにしろバイブルで語られるパラダイスにはアダムとイヴがいたのだから。つまり、心優しく親切な人々の住む場所だ。



大好きなモルジブを私が楽園とは呼ばない最大の理由は、自然が与えてくれる食べ物に乏しいからだ。生活物資を輸入に頼らなければならないようでは、とても楽園とは呼び得ない。それに対して、ロタ島には、野生のバナナ、ココナッツ、パパイア、マンゴー、パンの木(写真)、ロタレモン(写真)、アボガド、スターフルーツなどなど、あり余る熱帯の果樹が生えている。しかも、誰も見向きもしないほどだ。いや、フルーツバット(写真)(注3)が一部を食べているし、熟して地に落ちたものは小動物が食べる。ココヤシの実(ココナッツ)はヤシガニ(写真)(注4)の大好物だ。








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3.ロタ島の「楽園」を壊しているのはアメリカ流のライフスタイル



その自然はまさに楽園と呼ぶにふさわしいロタ島だが、それだけでロタ島を楽園と呼べるのだろうか? 実は、ロタ島には裏の面もあるのだ。



ロタ島にはチャモロ人とカロリン人(写真)(注5)を中心とした4,000人足らずの人々(統計上は3,162名だが、実際にはもっと多いようだ)が住む。




島に人々が住んで集落を営むと、元々の楽園から遠ざかりがちだ。つまり、色々な問題が生じる。それは人間の不用意な営みが、ロタ島の楽園的な要素を傷付けるとも言える。人々が住むことがいけないのではない。その生活の仕方が問題なのだ。極論すれば、楽園から遠ざかるのは、「石油の大量消費」が原因だと言えようか。つまり、南の島でいわゆるアメリカ流のライフスタイルを実践することだ。

北マリアナ諸島連邦はアメリカ合衆国の自治領であり、確かに経済を中心としてその影響が多大である。しかし、悪い面の全てをアメリカのせいにしてはならないだろう。それらを取捨選択したのは、他ならぬ北マリアナ諸島連邦の人達だとも言えるのだから。逆に考えれば、だからこそ、自分たちの手で楽園を取り戻すことができるとも言えるのだ。



石油の枯渇を50年後にひかえて(注6)、1人当たり同じ豊かさを実現するためのエネルギー消費量が日本人やヨーロッパ人の約5倍も多いと言われるアメリカ流のライフスタイルが長持ちしないことは自明だろう(注7)。「大量生産・長距離輸送・大量消費・使い捨て」というアメリカ流のライフスタイルは、安い石油のバックアップと環境破壊なしでは成立し得ないからだ。しかも、そのようなライフスタイルを南洋の小島であるロタ島で実践する弊害は計り知れない。さらに、それが島に住む人々の幸せに貢献しているとは、とても思えない。むしろ、お金やモノに追いまくられて不満がうっ積したり、落後者として自信を失って無気力に堕しているようにさえ見える。



現状では、ロタ島のエネルギーのほとんど全てを石油とそれによって発電される電気に頼っている。太陽エネルギーなどの再生エネルギー(再生可能エネルギー)(注8)の利用は、皆無に近い状態だ。また、島内に太陽の恵みである豊富な食べ物がありながら、食料の大部分を日本やアメリカなどからの輸入に頼っている(写真)。スーパーなどで島の産物を探すことは至難だ(写真)。これらはロタ島内の雇用を減らすと共に、石油への依存を強めるので、島民にとってはダブルパンチとなる。いや、環境破壊がついてくるのでトリプルパンチだ。






ロタ島が楽園たることを妨げている要因はまだまだ色々ある。しかし、これについては項を改めて書きたい。




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4.ロタ島に「新たな楽園」をつくる



反楽園的要素があるとは言え、楽園的な要素に比べて少ないのは間違いないことだろう。それだけロタ島のポテンシャル(潜在能力)は高い。そこで、近自然学の考え方を活用して、今ある楽園的要素を壊さないようにすると共に、非楽園的要素を少しずつ取り除いて、ロタ島を再び楽園に戻したい。戻すといっても、過去へ戻すわけではない。住民の求める現代の豊かさを実現しながら、「新たな楽園」を創造するのだ。島に暮らす人々が幸せな人生を送ることができ、さらに私自身が住みたいと思えるような楽園をつくりあげたい。



この新しい楽園を創造するという目的をできるだけ効率良くに達成したい。そのために利用できるのが、「バックキャスト手法」だ(詳しくは次回のコラムで述べる)。

まず、我々がこれから進むべき方向を指し示してくれるヴィジョン(理想像)を定める。これは「楽園」で決まりだろう。次に、その手前の実際に実現できる(実現したい)と思われる到達目標を設定する。それが実現されると確実に楽園に近づくような目標のことだ。そして、そこへ至る道筋(方策、手段)を決めて進む。こうすると、時間的経済的な無駄が少なく、理想の楽園に近づけるのだ。



ロタ島は「新たな楽園」となるのか?

次回から、より具体的なテーマについて書いていきたい。




2006年9月20日、スイス近自然学研究所にて





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注1)北マリアナ諸島連邦

(Commonwealth of the Northern Mariana Islands)

日本語の正式表記は「北マリアナ連邦」だが、英語の正式名には語尾に「諸島」が含まれている。

小笠原諸島の南隣り、つまり知られざる日本の隣国だ。太平洋西部のミクロネシアにあり14の火山島からなるアメリカ自治領。1668年スペインが占領。1898年、グアム島を除くマリアナ諸島がドイツに売られた。第1次世界大戦後は日本が統治し、第2次世界大戦後はアメリカ信託統治領となる。最南端のグアム島を除くマリアナ諸島が、1978年自治政府を発足させてアメリカ自治領北マリアナ諸島連邦となった。首都はサイパン島のガラパン市。全人口8万1,500人のうちの93%が首都のあるサイパン島に集中している。





注2)近自然学(きんしぜんがく)

環境先進国であるスイス・ドイツを中心として広まりつつある新しい環境共生思想と技術を体系化したもの。今まで対立すると信じられていた我々の豊かさと自然環境とを両立させるように考える点が斬新であり、それ故に文化を越えて多くの人々に受け入れられやすいとも言えよう。そしてそれは「太陽エネルギー(雨・風・波・バイオマスなどの間接太陽エネルギーも含む)の有効利用」や「負荷は集中、対策は分散の原則」などによって可能となる。ただし、部分的から統合的思考法(広い視野を持つこと)への転換など、今までの考え方からの発想転換と、広い視野を持った新しい人材(ジェネラリスト)が必要である。





注3)フルーツバット

和名 マリアナオオコウモリ

学名 Pteropus mariannus

英名 Mariana Fruit Bat

チャモロ名 Fanihi

オオコウモリの仲間で、主に熟した果物を好んで食すためにこの名がある。

脊索動物門 哺乳綱 翼手目 大翼手亜目に属する動物で、大きな個体では翼開長1mを越す。夜行性だが超音波のレーダーは持たず、その代わり視覚と嗅覚がよく発達していて、熟した果物を見つけ嗅ぎ分ける。性格が温和でペットにもなる。ロタ島の動物園で飼われているものの中には、人間の姿を見ると、そばに近寄ってくる人懐っこい個体もいる。顔が犬やキツネに似ていて、ドイツ語では「Flughund(飛犬)」、英語では「flying fox(飛狐)」とも言う。

ジャイアントパンダやトラなどと同様に国際希少野生動物種に指定されている貴重種でもある。IUCN(国際自然保護連盟)によるレッドデータブックでは、マリアナオオコウモリを絶滅危惧種に指定している。ロタ島ではまだまだたくさん生息しているようだが、マリアナオオコウモリにとってロタ島は地上に残された最後の楽園と言えよう。





注4)ヤシガニ

和名 ヤシガニ

学名 Birgus latro

英名 Palm crab、Coconut crab、Robber crab

チャモロ名 Ayuyu(アジュジュと発音する)

節足動物門 甲殻綱 十脚目(エビ目) オカヤドカリ科の陸生ヤドカリ。貝殻を持たず、暗赤色のザリガニに近い形状。沖縄以南の熱帯諸島に分布する。幼生は海で過ごすが、成体は海に入らない。普通は海のそばに穴居するが、ロタ島では海からかなり離れた山岳部でも見かける。ロタ島のそれは脚開長1mに達し、体重5kgを越える巨大な個体もある。夜行性で、強大なはさみ足でココナッツやタコノキの実を割って食べる。その肉はとても美味しく、海のロブスター(アカザエビ科に属する大形の食用エビで、フランス料理ではオマールといい高級料理)と共にチャモロ人の代表的なご馳走となる。

ヤシガニは食料として貴重な資源ではあるが、ボルネオ・インドネシアの大部分・ニューギニアなどでは乱獲により絶滅したと言われ、かつては希少種に指定されていた(現在は情報不足)ので、大っぴらに食べてはいけない。





注5)チャモロ人とカロリン人

チャモロ人はマリアナ諸島のポリネシア系原住民。皮膚は淡褐色。性格は温和で親切。元々文化は低くなかった。1668年スペインが占領後、主にスペイン人との混血とカトリック宣教師の活躍を通じて、独自の文化は消滅したと言われるが、実際には古い知恵を伝承しているチャモロ人たちも少数だが存在する。現在のチャモロ人の姓はスペイン系のものが多く、チャモロ語にもスペイン語が多く入っている。ロタ島にはスペイン人が恐らくは奴隷として連れてきたミクロネシア系のカロリン人もおり、チャモロ人とカロリン人の社会的な差別はない。現に、2006年に選ばれた新しいガバナー(知事)はカロリン系だ。両者は似ており、かろうじて頭髪で区別が付く。チャモロ人の頭髪は直毛で、カロリン人のそれは縮れていると言われる。

写真は、ロタ島出身である政府高官のジェイムズ・サントス氏と奥様のキナイ氏。





注6)石油の枯渇を50年後にひかえて

枯渇と言っても地球上から石油が消滅するわけではない。石油によって得られるエネルギー以上のエネルギーをそれを得る(採掘する)ために投入しなければならず、採算が取れなくなるという意味だ。この限界点が埋蔵量と生産量から計算でき、OPEC諸国で84年、非OPEC諸国で25年、合計すると49年となる(2005年末現在)。

資本主義経済では、需要と供給の関係で値段が決まるので、これから枯渇に向かって石油価格はどんどん上がることが予想される。





注7)アメリカではエネルギー消費量が日本の約5倍多い

豊かさと環境を両立させようとする場合、国民1人当たりがある特定の豊かさを実現するのに必要とするエネルギー消費量に注目するという考え方がある。豊かさを計る物差しは難しいが、GNP(gross national product の略で国民総生産のこと)または GDP(gross domestic product の略で国内総生産のこと)で代表するのが一般的であろう。

アメリカ合衆国における国民1人当たりのエネルギー消費量は日本のそれに比べて約2.2倍多い(2000年のスイス政府発表のデータによる)。また、GNP1ドルを実現するための投入エネルギー量は、アメリカ合衆国では日本のそれに比べて約2.4倍多い(同)。故に、国民1人が同じ豊かさを実現するためのエネルギー消費量は、両者を掛け合わして約5.4倍多いことになる。

日本とヨーロッパ諸国はほぼ同レベルなので、日本やヨーロッパ諸国では、国民1人が同じ豊かさを実現するために、アメリカ合衆国の5分の1(約20%)のエネルギーしか必要としないことを意味する。つまり、それだけ効率が高いわけだ。

ちなみに、スイス人1人当たり、GNP1ドル当たりのエネルギー消費量は日本よりさらに低く、アメリカ合衆国の14分の1(約7%)でしかない。日本に比べてもその半分以下(約40%)と大変低く、従ってとても高効率だ。





注8)再生エネルギー(再生可能エネルギー)

再生エネルギーとは、使ってもどんどん再生してくるエネルギーのことで、一度使ったらお終いの、石油など枯渇エネルギー(化石エネルギー)に対する表現。ヨーロッパでは再生可能エネルギーと言う。自然エネルギーという表現が日本にあるが、石油も自然なエネルギーなので、国際的には通用しない。

太陽エネルギーが再生エネルギーの代表であるが、地熱エネルギーと潮汐エネルギーも含む。太陽エネルギーは光・熱の直接太陽エネルギーの他、風・雨・バイオマス(生物資源)・波などの間接太陽エネルギーも含む。有効利用の際は、むしろ間接太陽エネルギーの方が重要とも言える。

我々が利用できる再生エネルギーの総量の99.97%が太陽エネルギーなので、再生エネルギーを語る場合、太陽エネルギーを語ることとほぼ同義だとも言える。

再生エネルギーは石油や原子力などの集中したエネルギーとは反対に、分散したエネルギーだ。故に、その有効利用では、頭の切り替えがとても重要だ。現状では、大規模な施設に傾きがちで、成功しているとは言い難い。





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★動物種の解説では動物とビオトープの専門家、長谷川明子氏(1級ビオトープ計画管理士)のお世話になった。心からの謝辞を表したい。



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